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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7844号 判決

原告 金剛株式会社

右代表者代表取締役 谷脇源資

右訴訟代理人弁護士 雨宮正彦

右輔佐人弁理士 樺山亨

被告 日本ファイリング製造株式会社

右代表者代表取締役 田嶋遠平

右訴訟代理人弁護士 小坂志磨夫

同 青柳昤子

右輔佐人弁理士 江原望

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、業として別紙第五目録記載の製品を製造し販売し又は販売のため展示してはならない。

2  被告は、原告に対し、金三五〇〇万円及びこれに対する昭和五四年八月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二請求の原因

一  原告は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

登録番号 第一二六七三四六号

考案の名称 手動式移動物置棚

出願 昭和四九年一月二一日

出願公開 昭和五〇年八月一八日

出願公告 昭和五三年四月二四日

登録 昭和五三年一二月二二日

実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲(以下、「本件登録請求の範囲」という。)は、別添実用新案公報の実用新案登録請求の範囲の記載のとおりである。

二  本件考案の構成要件及び作用効果は、次のとおりである。

1  構成要件

(一) 物置棚の側壁に軸装した手動把輪4と共軸一体の伝動輪5と、前記物置棚の底部に軸装され軌条1上を転動する車輪3と共軸一体の伝動輪との間に伝動紐6をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚であること。

(二) 前記把輪4と共軸一体に鎖輪状の回転輪7を設けること。

(三) 物置棚外から手動的に操作しうる杵材8a(9a)を必要に応じ前記回転輪7の歯間に係合させるようにしてあること。

2  作用効果

本件考案は物置棚の暴走を未然に防止するという作用効果を有する。すなわち、物置棚の側壁に軸装した手動把輪と連動する伝動輪と、この物置棚の底部に軸装され軌条上を転動する車輪と連動する伝動輪との間に伝動紐をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚にあっては、床に敷設された軌条が傾斜している場合物置棚が暴走して物置棚と物置棚の間の通路内で物品の出し入れをしている者を押し潰したり、暴走した物置棚が他の物置棚に衝突して物置棚内に積重ねられている物品が崩れたりするおそれがあるが、本件考案は、杆材の一端を制動輪の歯間に係合させて前記手動把輪と連動する伝動輪の回転を阻止するよう構成されているため、前記車輪の回転も自ら阻止され、物置棚の暴走を未然に防止することができる。

なお、手動式移動物置棚において車輪自体に直接制動をかけ物置棚の暴走を防止するものは公知であったが、本件考案は、減速機構を用いる結果、回転力が増巾されている車輪をロックするよりも最も回転力の弱い部分をロックする方が有利であるため、前記の構成により、車輪自体ではなく回転輪をロックするようにしたものである。

三  被告は、現に別紙第五目録記載の製品(以下、「第五製品」という。)を、業として、製造、販売し、販売のため展示している。

被告は、昭和五一年三月別紙第二目録記載の製品(以下、「第二製品」という。)を、昭和五一年四月から昭和五二年七月まで別紙第四目録記載の製品(以下、「第四製品」という。)を、昭和五二年八月から昭和五三年一〇月まで別紙第三目録記載の製品(以下、「第三製品」という。)を、昭和五三年一一月から昭和五五年四月まで別紙第一目録記載の製品(以下、「第一製品」という。)を、それぞれ製造、販売した(以下、第一ないし第五各製品を総称するときは「被告製品」という。)。

四  第一及び第五製品の構成と本件考案の構成要件との対比

1  第一及び第五製品の構成

(一) 物置棚の側壁に軸装したハンドル(4)とクラッチを介して連結している第一伝動輪(5)、前記物置棚の底部に軸装されレール(1)上を転動する車輪(3)と共軸一体の第四伝動輪(20)(21)、及び第一伝動輪(5)と第四伝動輪(20)(21)との中間に位置する第二伝動輪(15)とこれと共軸一体をなしかつこれよりも小径の第三伝動輪(17)を具備しており、前記第一伝動輪(5)と第二伝動輪(15)とをチェーン(6)で連結し、第三伝動輪(17)と第四伝動輪(20)(21)とをチェーン(6)'で連結することにより減速駆動するようにした手動式移動物置棚であること。

(二) 前記第一伝動輪(5)と共軸一体をなし、かつ前記ハンドル(4)とクラッチを介して連結している鎖輪状の回転輪(7)を設けてあること。

(三) 表示兼ロックレバー(24)(24)'により物置棚外から手動的に操作しうる係合板(8)を必要に応じ前記回転輪(7)の歯間に係合させうるようにしてあること。

2  対比

(一) 第一及び第五製品の構成(一)、(二)は、物置棚の側壁に軸装したハンドル(4)と連結している第一伝動輪(5)及び鎖輪状の回転輪(7)と、物置棚の底部に軸装されレール(1)上を転動する車輪(3)と共軸一体の第四伝動輪(20)(21)とを具備しており、これらの第一伝動輪(5)と第四伝動輪(20)(21)との間にチェーン(6)(6)'をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚である点において本件考案の構成要件(一)、(二)と異なるところはない。

もっとも、本件考案の構成要件(一)、(二)では「伝動輪5」及び「鎖輪状の回転輪7」が「手動把輪4」と「共軸一体」であるとされているのに対し、第一及び第五製品においては第一伝動輪(5)と回転輪(7)とは共軸一体であるが、これらとハンドル(4)とはクラッチを介して連結されている点において、相違している。しかしながら、

(1) 本件考案にいう「共軸一体」とは、厳密に一本の軸に「手動把輪4」と「伝動輪5」と「回転輪7」とが固着されている場合のみを指すものではなく、少なくとも「手動把輪4」が、操作時において「伝動輪5」及び「回転輪7」と共軸一体となる態様をも含むものであり、第一製品においては、ハンドル(4)を左右いずれかに略三〇度回すと第一伝動輪(5)の軸(14)に固定されている従動クラッチ輪(31)とハンドル(4)の基部に固定されている駆動クラッチ輪(32)とが鋼球(33a)(33b)を介して一体化することによって、ハンドル(4)は第一伝動輪(5)の軸(14)と一体に結合され、ハンドル(4)の回動に伴い第一伝動輪(5)及び軸(14)に固定されている回転輪(7)は回動する。したがって、第一製品のハンドル(4)は、操作時において第一伝動輪(5)及び回転輪(7)と「共軸一体」となる。

第五製品においても、第一伝動輪(5)及び回転輪(7)が固定されている軸(14)のにはクラッチ輪(31)が固定され、一方ハンドル(4)の基部背面には一対のクラッチ片(32)(33)が軸(14)のに関して対称的に枢着されていて、ハンドル(4)を時計方向に略四五度回すと、一方のクラッチ片(32)の先端(32a)がクラッチ輪(31)の凹部(31a)と係合し、この係合した状態からさらにハンドル(4)を同方向に回動させると、クラッチ片(32)とクラッチ輪(31)とが係合したまま一体となって同方向に回動する。したがって、第五製品においてもハンドル(4)を物置棚を移動させるというハンドル本来の目的のために操作した場合、ハンドル(4)は第一伝動輪(5)及び回転輪(7)と「共軸一体」となる。

(2) 仮に、右にいう「共軸一体」とは厳密に一本の軸に「手動把輪4」と「伝動輪5」と「回転輪7」とが固着されている場合のみを指すとしても、本件考案の特徴は、「手動式移動物置棚の暴走を未然に防止する」という課題の解決手段として、「伝動輪5と共軸一体に鎖輪状の回転輪7を設け、物置棚外から手動的に操作し得る杆材8a(9a)を必要に応じ前記回転輪7の歯間に係合させ得るようにした」構成を採用したところにあるから、この構成を具備する以上、「手動把輪4」を右「伝動輪5」及び「回転輪7」の軸にクラッチを介して連結し、「手動把輪4」が操作時において「伝動輪5」及び「回転輪7」と共軸一体となるようにしたとしても、本件考案の特徴とは関係のない部分についての微差又は単なる設計変更にすぎない。

以上より、第一及び第五製品の構成(一)、(二)は、本件考案の構成要件(一)、(二)を充足する。

(二) 第一及び第五製品の構成(三)は、本件考案の構成要件(三)を充足する。

よって、第一及び第五製品は、本件考案の構成要件をすべて具備する。

五  第二製品の構成と本件考案の構成要件との対比

1  第二製品の構成

(一) 物置棚の側壁に軸装したハンドル(3)と共軸一体の第一伝動輪(5)と、物置棚の底部に軸装されレール(18)上を転動する車輪(12)(13)と共軸一体の車輪伝動輪(14)(15)と、物置棚の底部に回転自在に支持された中間軸(8)の外端に固定され、かつ第一伝動輪(5)よりも直径の大きい第二伝動輪(7)と、中間軸(8)の内端に固定され、かつ第二伝動輪(7)よりも直径の小さい中間伝動輪(11)とを具備し、第一伝動輪(5)と第二伝動輪(7)とをチェーン(9)で連結し、車輪伝動輪(14)(15)と中間伝動輪(11)とをチェーン(16)で連結することにより減速駆動するようにした手動式移動物置棚であること。

(二) ハンドル(3)と共軸一体に鎖輪状の回転輪(6)を設けてあること。

(三) 表示兼ロックレバー(20a)(20b)により物置棚外から手動的に操作しうる係止片(21)を必要に応じ回転輪(6)の歯間に係合させうるようにしてあること。

2  対比

(一) 第二製品の構成(一)は、物置棚の側壁に軸装したハンドル(3)と共軸一体の第一伝動輪(5)と、物置棚の底部に軸装されレール(18)上を転動する車輪(12)(13)と共軸一体の車輪伝動輪(14)(15)とを具備し、これらの第一伝動輪(5)と車輪伝動輪(14)(15)との間にチェーン(9)(16)をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚である点において本件考案の構成要件(一)と異なるところはない。

(二) 第二製品の構成(二)、(三)は、それぞれ本件考案の構成要件(二)、(三)を充足する。

よって、第二製品は、本件考案の構成要件をすべて具備する。

六  第四製品の構成と本件考案の構成要件との対比

第四製品の構成は、車輪に対するチェーンのかけ方を異にする外は、第二製品の構成と同一である。

よって、第四製品は、第二製品と同様、本件考案の構成要件をすべて具備する。

七  第三製品の構成と本件考案の構成要件との対比

1  第三製品の構成

(一) 物置棚の側壁に軸装したハンドル(3)とクラッチを介して連結している第一伝動輪(4)と、物置棚の底部に軸装されレール(16)上を転動する車輪(12b)(12c)と共軸一体の車輪伝動輪(14a)(14b)と、物置棚の底部に回転自在に支持された軸(10)の外端に固定され、かつ第一伝動輪(4)よりも直径の大きい第二伝動輪(9)と、車輪伝動輪(14a)(14b)と相対する位置において軸(10)に固定され、かつ第二伝動輪(9)よりも直径の小さい中間伝動輪(11a)(11b)とを具備し、第一伝動輪(4)と第二伝動輪(9)とをチェーン(8)で連結し、車輪伝動輪(14a)(14b)と中間伝動輪(11a)(11b)とをチェーン(15a)(15b)で連結することにより減速駆動するようにした手動式移動物置棚であること。

(二) 第一伝動輪(4)と共軸一体をなし、かつハンドル(3)とクラッチを介して連結している鎖輪状の回転輪(7)を設けてあること。

(三) 表示兼ロクレバー(18a)(18b)により物置棚外から手動的に操作しうる係止片(19)を必要に応じ回転輪(7)の歯間に係合させうるようにしてあること。

2  対比

(一) 第三製品の構成(一)、(二)は、物置棚の側壁に軸装したハンドル(3)と連結している第一伝動輪(4)及び鎖輪状の回転輪(7)と、物置棚の底部に軸装されレール(16)上を転動する車輪(12b)(12c)と共軸一体の車輪伝動輪(14a)(14b)とを具備しており、これらの第一伝動輪(4)と車輪伝動輪(14a)(14b)との間にチェーン(8)(15a)(15b)をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚である点において本件考案の構成要件(一)、(二)と異なるところはない。

もっとも本件考案の構成要件(一)、(二)では「伝動輪5」及び「鎖輪状の回転輪7」が「手動把輪4」と「共軸一体」であるのに対し、第三製品においては第一伝動輪(4)と回転輪(7)とは共軸一体であるが、これらとハンドル(3)とはクラッチを介して連結されている点において相違していることは第一及び第五製品と同様である。しかしながら、この相違にもかかわらず、第三製品の構成(一)、(二)が本件考案の構成要件(一)、(二)を充足すると解すべきことは前記第一及び第五製品について述べたとおりである。

(二) 第三製品の構成(三)は、本件考案の構成要件(三)を充足する。

よって、第三製品は、本件考案の構成要件をすべて具備する。

八  被告製品は、いずれも係合板(杆材)の一端を回転輪(制動輪)の歯間に係合させてハンドルと連動する伝動輪の回転を阻止することにより、その底部に軸装されレール上を転動する車輪の回転を阻止するよう構成されている点において、本件考案の特徴たる技術思想をそのまま踏襲するものであり、したがって、物置棚の暴走を未然に防止するという本件考案が有する作用効果と同一の作用効果を有する。

九  以上のとおり、被告製品の各構成はいずれも本件考案の構成要件を充足し、被告製品の作用効果は本件考案の作用効果と同一であるから、被告製品はいずれも本件考案の技術的範囲に属する。

一〇  差止請求

第五製品は本件考案の株術的範囲に属するから、原告は、被告に対し、被告が第五製品を業として製造、販売し又は販売のため展示する行為の差止めを求める。

一一  補償金及び損害賠償請求

1(一)  昭和五一年三月から昭和五四年七月三一日までの間の第一ないし第四製品の販売件数、売上高は、次のとおりである。

第一製品 一八一件 五億四三〇〇万円

第二製品 二件 六〇〇万円

第三製品 二〇九件 六億二七〇〇万円

第四製品 一一一件 三億三三〇〇万円

以上合計 一五億九〇〇万円

(二) 本件考案の実施に対し通常受けるべき実施料は被告製品の販売価額の四パーセントであるから、被告製品の総売上高一五億九〇〇万円に右実施料率一〇〇分の四を乗じて得られた六〇三六万円が本件考案の実施に対し通常受けるべき実施料相当額となる。

2  被告は、昭和五〇年八月一八日本件考案について出願公開があった頃、右出願公開の事実及び出願公開された本件考案の内容を知った。

3  よって、被告は、原告に対し、本件実用新案登録出願公告の前日である昭和五三年四月二三日までについては補償金として、出願公告日である同年同月二四日以降は損害金として右実施料相当額六〇三六万円の支払義務があるところ、原告は、被告に対し、右の内金三五〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年八月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  認否

1  請求の原因一は認める。

2  同二は否認する。

3  同三は認める。

4  同四ないし九は否認する。

5  同一一は被告が昭和五一年三月に第二製品を二件製造、販売したことは認め、その余はすべて否認する。

二  本件考案の構成要件とその解釈

1  本件考案の構成要件

(一) 本件考案の構成要件は、

A 物置棚の側壁に軸装した手動把輪4と共軸一体の伝動輪5と、上記物置棚の底部に軸装され軌条1上を転動する車輪3と共軸一体の伝動輪との間に伝動紐6をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚において

B 上記把輪4と共軸一体に鎖輪上の回転輪7を設け、物置棚外から手動的に操作しうる杆材8a(9a)を必要に応じ上記回転輪7の歯間に係合させうるようにした装置

であり、右構成要件Aの手動式移動物置棚において、構成要件Bを具備することを必須とするものである。

(二) 本件考案は、原告の先願に係る手動式移動物置棚についての考案(実願昭四三―二二一一七号。以下、右出願に係る考案を「別件第一考案」という。)を対象とし、かかる物置棚の暴走を防ぐことを課題とした考案であって、右物置棚(構成要件A)に構成要件Bを加える構成により、その解決をはかったものであり、別件第一考案の改良考案にすぎない。

(三) 原告は、別件第一考案の物置棚の暴走を防ぐことを課題として、本件考案とは別の考案を出願している(実願昭四九―三七二九三号。以下、右出願に係る考案を「別件第二考案」という。)。この別件第二考案の明細書において、本件考案に係る移動物置棚は手動把輪と杆材の操作部が物置棚の側壁において重なり、杆材を操作し辛い欠点を有することが明記されており、これによれば、本件考案は、構成要件Aを具備した物置棚において、このような欠点を避けえない極めて限定された構造の暴走防止装置(構成要件B)を提供するものにすぎないことが明らかである。

2  本件考案の構成要件Aの「手動把輪4と共軸一体の伝動輪5」及び「車輪3と共軸一体の伝動輪」並びに構成要件Bの「把輪4と共軸一体に鎖輪状の回転輪7を設け」における「共軸一体」の意味について

(一) 「共軸一体」とは、その字句自体から、幾つかの部品が一本の軸を共にし、軸に一体に固着されている構造を示す用語であり、このような構造を示す技術用語として当業者間で理解されている。本件明細書において「共軸一体」について別段の説明はなく、本件明細書における実施例もすべて手動把輪の軸又は車輪の軸に、手動把輪、回転輪、伝動輪が一体に固着された構造を示している。

(二) 「共軸一体」の意味を右のように解すべきことは原告自身自認している。

(1) 本件考案の構成要件Aが別件第一考案の手動式移動書架(物置棚)そのものであることは本件明細書から明白であり、かつ別件第一考案における「共軸一体」が、各部品が軸を共にし、軸に一体に固着されている構造であることは別件第一考案の明細書から明白である。

(2) 別件第二考案の明細書において、本件考案は、手動把輪と杆材の操作部とが棚の側面において重なり、杆材を操作し辛い欠点を有する旨記載されている。右記載からすれば本件考案の出願人は、本件考案の技術内容を本件明細書の実施例に示される具体的構造そのものであると認識していたことが窺われ、当該実施例において手動把輪、伝動輪、回転輪が軸を共にし、軸に一体に固着された構造のみが示されていることは右(一)のとおりである。

(3) 原告の別件実用新案登録出願(実願昭四九―三八八七七号。以下、右出願に係る考案を「別件第三考案」という。)の明細書において、「手動把輪」と「伝動輪」が「共軸一体」構造の場合には、「被動がわの物置棚における把輪4が回転し、傍で作業をしている者の衣服等を巻込む危険があり、また始動時に重い把輪による負荷抵抗のため余分の駆動力を必要とする欠点があった」(別件第三考案の実用新案公報2欄一〇ないし一四行参照)と記載されている。従走棚の手動把輪が空転するのは手動把輪と伝動輪が軸に一体となっているからであり、原告は、手動把輪と伝動輪の共軸一体構造の右欠点を解消するため手動把輪をその軸に対して係脱自在とした構造の装置を右別件第三考案として出願したのである。したがって、係脱自在の構造が共軸一体構造に含まれないことは、原告自身によって当然のこととされていた。

(4) 原告の別件実用新案登録出願(実願昭四九―一一三〇七四号。以下、右出願に係る考案を「別件第四考案」という。)において、手動把輪が授動車軸と共軸一体構造となっているとき、手動把輪の回転時に邪魔にならないように操作把手を倒しうるようにした構造が提案されているが、別件第四考案の出願についての異議答弁書中で、原告は、かかる提案をしたのは、「一個の戸棚を駆動源として同時に多数の戸棚を押し動かす場合、押し動かされる方の棚の把輪および把手が空転し、把手が歩行者の体躯を打撃したり、歩行者の衣服を巻き込んだりする欠点があるため」であると述べている。右説明からも手動把輪が授動車軸と共軸一体構造であるため従走時に手動把輪が空転すること、すなわち右「共軸一体」構造とは手動把輪が授動車軸に一体に固着されている構造であることが明らかである。

(5) 原告は、原告の別件実用新案登録出願(実願昭四九―二四六六号。以下、右出願に係る考案を「別件第五考案」という。)の明細書において、軸を共にし軸に固着された手動把手3と伝動輪4とは「共軸一体」構造であると明記し、他方、車輪の軸と伝動輪についてはクラッチを介する構造を提案し、これを別件第五考案している。そして、このようなクラッチを介した構造については右明細書において「共軸一体」とは呼ばず、「共軸的に設け」ると表現して、「共軸一体」との差異を明確にしている。

3  本件考案の構成要件A及びBにおける「手動把輪」について

(一) 「把輪」の「輪」とは「長いものをまげて円くしたものの総称・車の軸の周囲に回転して、車を進める円形の具」を意味するから、「把輪」とは、字句どおり環状の把手の意と解される。

(二) 「把輪」の意味を右のように解すべきことは、原告自身自認している。

(1) 原告は、別件第二考案の明細書において、本件考案を引用したうえで本件考案の欠点として、手動把輪と杆材の操作部とが物置棚の側面において重なり杆材を操作し辛いとの欠点を挙げている。杆材を操作し辛いのは正に手動把輪の環状形状内に操作部が入ってしまうからである。

(2) 原告は、別件第四考案の明細書において、「手動把輪」と「操作把手」の用語を明確に区別して用いている。

(3) 本件考案が物置棚の操作部材を特に「手動把輪」に限定したことは、本件考案の他の構成要件と不可分の関係にある。すなわち、本件考案における伝動輪と共軸一体構造となる物置棚の操作部材を仮に被告製品の如きハンドルとした場合、自走棚を移動し終り停止したときハンドルの回転停止位置が垂直方向に限らず不揃いに停止し、これを垂直方向に揃えることができず、また、従走棚において空転するハンドルの回転停止位置が不揃いとなることを免がれない。しかし、本件考案のように把輪(環状の把手)を採用すれば、どのような位置で把輪が停止しても、中心対称の形状であるため回転停止位置の不揃いという問題を避けることができる。すなわち、本件考案の構成において棚の操作部材を把輪の構造とすることは、他の共軸一体構造の要件と必須不可分の構成なのである。

4  本件考案の構成要件Bにおける「杆材」について

(一) 「杆材」とは、「杆」が「てこ。ぼう。」を意味する語であるところから、字句どおり棒状部材と解すべきである。本件明細書の実施例の説明における「杆材を平面形状H形に一体に組立てた摺動体8のうちの一つの杆材8aの一端が係合して上記回転輪7は制動輪の役目をするようになっている」(本件実用新案公報第2欄三二行ないし三五行参照。)との記載からするならば、「杆材」が棒状部材以外を指称する余地はない。また、本件明細書中には「杆材」を棒状部材以外に解すべきことを示唆する記載も存しない。

(二) 「杆材」の意味を右のように解すべきことは、原告自身自認している。

(1) 前記のように、原告は、別件第二考案の明細書において、本件考案が手動把輪と杆材の操作部とが物置棚の側面において重なり操作し辛い欠点を有する旨指摘しているが、これは、本件考案における暴走防止装置が、細長い棒状部材である杆材を手動把輪及び伝動輪と共軸一体の回転輪の歯間に係合させるという構成を採っているためである。すなわち、右回転輪の歯間に棒状の杆材を安定して係合させるためには、回転輪の回転軸に対して平行な方向に杆材を指向させ、同杆材をその長手方向に沿って移動させるか、又はこれと平行で一体の杆材9bを中心として揺動させなければならず、このために、杆材の操作部と手動把輪とが物置棚の側面で重なり杆材の操作が困難となるのである。

(2) 本件考案の構成要件Bの構成では、杆材の操作部が手動把輪の回転範囲内に留まり、杆材操作が困難である欠点を有すること前記のとおりであるが、原告の別件実用新案登録出願(実願昭五一―二〇九九〇号。以下、右出願に係る考案を「別件第六考案」という。)においては、「杆材」にかえて「制動片」を採用し、制動片を楔利用で上下に昇降させて回転輪(別件第六考案では「制動輪」と称されているもの。)の歯間に係脱自在に係合させる構成で、右欠点を克服することが提案されている(別件第六考案の実用新案公報4欄一五行ないし一八行参照。)すなわち、別件第六考案においては、回転輪の歯間に係合する制動片は、本件考案の如き棒状の部材ではなく、扁平な板状部材であり、このような扁平の板状の制動片であればこそ、その面を回転輪の回転平面に対して直角に交叉した状態に配置し、制動片の長手軸を回転輪の回転軸に対して垂直な上下方向に指向させても制動片が回転輪の歯間に安定して係合しうるのである。(本件考案の杆材を回転輪の回転軸に対して垂直に係合させようとしても杆材では安定して係合せしめえない。)

右のように、原告は、別件第六考案では回転輪に係合させる板状部材についてこれを制動片と命令しており、この板状部材を杆材と別異に取扱っている。この点からしても、杆材とは細長い棒状部材であり、制動片とは扁平な板状部材であることが本件考案の出願人である原告の認識に外ならないことが充分に窺える。

三  対比

1  「共軸一体」の要件について

(一) 第一、第三、第五製品について

(1) 本件考案の構成要件A及びBにおいて、前記のとおり「手動把輪」と「伝動輪」、「手動把輪」と「回転輪」とがそれぞれ「共軸一体」、すなわち軸を共にし軸に一体に固着されている構造となっている。

第一、第三及び第五製品においては、ハンドルと、第一伝動輪及び回転輪の軸との間に、特殊クラッチが介装されており、ハンドルは第一伝動輪及び回転輪の軸に一体に固着されておらず、「共軸一体」ではない。たとえ、ハンドルを一定角度以上回して、クラッチが楔合した場合でもハンドルは伝動軸に対して一体に固着された構造に変わるわけではない。クラッチが楔合した場合に、機能として、ハンドルからの回転力が伝動輪に伝えられたとしても、構造として、「一体」となったとはいえない。

(2) 第一及び第三製品においては、ハンドルが鉛直垂下状態では、車輪から減速機構を介して従動クラッチ輪に加えられる従走回転力はハンドルに伝達されないが、ハンドルが鉛直垂下状態からほぼ三〇度を越えた状態では、ハンドルに加えられる操作回転力は駆動クラッチ輪より鋼球のいずれか一方、従動クラッチ輪及び減速機構を介して車輪に伝達される構成となっているため、従走時の従走棚の車輪からの回転力はハンドルには伝達されず、従走棚のハンドルは回転することなく鉛直垂下状態を保持しうるのであり、これに対して、本件考案においては、手動把輪と伝動輪の共軸一体構造を必須の要件とするため、その結果として従走棚の手動把輪の空転という欠点を避けえないものであり、両者はその作用効果を異にする。

また、第五製品における特殊クラッチも、ハンドルの回転力を車輪に伝えるが車輪からの回転力はハンドルに伝えない。したがって従走棚のハンドルが空転しないという点において、第一製品と同一であり、本件考案とはその作用効果を異にする。

(3) よって、第一、第三及び第五製品は、本件考案の構成要件A及びBにいう「共軸一体」の構造を具備せず、作用効果を異にし、いずれも構成要件A及びBを充足しない。

(二) 第二、第三及び第四製品について

本件考案の構成要件Aにおいては、前記のとおり「車輪」と「伝動輪」とが「共軸一体」すなわち軸を共にし軸に一体に固着されている構造となっている。

第二、第三及び第四製品において、車輪と車輪伝動輪とは「共軸一体」の構造となっていない。すなわち、第二、第三及び第四製品においては、各車輪(12b)(13b)、((12b)(13b))、((14a)(14b)(15a)(15b))(第一の縦かっこ内は第三製品についての、第二の縦かっこ内は第四製品についての図面符号を表わし、その余は第二製品についての図面符号を表わす。以下、同じ。)はすべて台枠にそれぞれ取付けられた各車輪軸(25)、((20))、((12))にベアリング(26)、((21))、((13))を介して独立して回転しうるように枢支されているものであり、車輪軸(25)、((20))、((12))に固着されていない。また車輪伝動輪(14)(15)、((14a)(14b))、((16a)(16b))も、車輪(12b)(13b)、((12b)(12c))、((15a)(15b))のボス(12b)'(13b)'、((12b)'(12c)')、((15a)'(15b)')に、第二製品についてはボルト(27)によって、第三、第四製品については溶接によって、同心状に固着されているだけのものであって各車輪軸(25)、((20))、((12))には固着されていない。

なお、この車輪枢支方式は、コストが安く、調整が容易という利点を有するものであり、特許庁において考案性が認められ、既に実用新案登録査定済である。

よって、第二、第三及び第四製品は、本件考案の構成要件Aにおける「車輪と共軸一体の伝動輪」との構造を具備せず、いずれも構成要件Aを充足しない。

2 「手動把輪」の要件について

本件考案の構成要件A及びBにおける「手動把輪」は、字句どおり環状の把手の意味に解すべきことは前記のとおりであるが、被告製品におけるハンドルは、いずれも環状の把手ではない。

よって、被告製品は、構成要件A及びBにおける「手動把輪」を具備せず、いずれも構成要件A及びBを充足しない。

なお、ハンドル形状にあっては、共軸一体構造の場合、ハンドルの停止位置不揃いの問題が生じること前記のとおりである。

3 「杆材」の要件について

(一)  本件考案の構成要件Bにおける「杆材」とは字句どおり細長い棒状部材と解すべきこと前記のとおりであるが、被告製品において回転輪の歯間に係合する係合板又は係止片は、いずれも扁平な板状部材であり、「杆材」ではない。

(1)  第一及び第五製品におけるロック装置の構成は、回転輪(7)の上方に物置棚の移動方向と平行に軸(23)を設け、この軸の両端に表示兼ロックレバー(24)(24)'を、中央部に偏心カム部(25)を固定し、この偏心カム部に係合板(8)の長孔(8a)が緩く嵌合し、係合板(8)の下端のフォークを回転輪(7)の上部に位置せしめているものであり、そして係合板(8)はその上端に圧接している板バネ(26)によって常時下方に押圧せしめられているという構造であり、単に杆材を回転輪の歯間に係合させるという本件考案の構成と異なる。

(2)  第二、第三及び第四製品におけるロック装置の構成は、回転輪(6)、((7))、((6))の上方に物置棚の移動方向と平行に軸(19)、((17))、((20))を物置棚の側壁(2)、((2))、((2))内に固設された支持板(23)、((23))、((23))及びプラスチック製枢支部材(31)、((41))、((25))の半円形の溝(32)、((42))、((26))によって回動自在に支持し、この軸(19)、((17))、((20))の両端に表示兼ロックレバー(20)、((18))、((21))を、中央部に係止片(21)、((19))、((22))を固定したものであり、また、この軸(19)、((17))、((20))は係止片(21)、((19))、((22))の側縁が支持板(23)、((23))、((23))に衝合することによって、その回動範囲を九〇度に制限される構造となっており、単に杆材を回転輪の歯間に係合させるという本件考案の構成とは異なる。

(二)  本件考案における暴走防止装置は、細長い棒状部材たる杆材を手動把輪と共軸一体の回転輪の歯間に係合させるという極めて特定された構造に限られるものであり、かかる構造の結果、杆材の操作部材が手動把輪の位置に重なるという欠点を避けえないこと前記のとおりである。これに対し、被告製品においては、右(一)の構成を採ることによって係合板又は係止片を操作する表示兼ロックレバーを物置棚の枝通路側に設けることが可能となり、ハンドルの位置と重なることが避けられる。

(三)  本件考案の「杆材」を用いるロック装置と被告製品におけるロック装置とは技術的思想において異なり(被告製品のロック装置の基本的思想を示す構造の一例については、既に実用新案登録査定がなされている。)、その結果として具体的構造を異にする。すなわち、本件考案は、本件明細書に明記されているとおり、床に布設された軌条が傾斜している場合に傾斜上方の棚が下方に暴走することを防ぐため杆材を回転輪歯間に係合せしめようというものである(したがって、杆材を回転輪歯間に係合せしめる棚は傾斜上方の棚一つで足りるのである。)。これに対し、被告製品においては、軌条の傾斜はレール布設上の技術的問題として解決済であり、ロック装置は、作業者が通路内にいる場合に誤って他の通路の開閉が行われないように作業中の通路を確保するためのものである。このように被告製品の場合は、本件考案とその目的を異にし、作業通路に面する左右二つの棚を同時にロックし、かつ、ロック表示が明瞭に示されることを所期するものである。そのために、被告製品においては、回転輪に係合する表示兼ロックレバーが各棚の主通路側に有する側板の厚み部における両枝通路側に回転式に設けられ、その結果、枝通路入口付近に立って手をのばせば左右二つの棚の表示兼ロックレバーを容易に操作してロックすることができ、かつ、ロックされたときにはその過半部分が主通路側に突出し、主通路側からも枝通路内からも容易に確認しうる。

本件考案と被告製品とはこのようにロック装置により解決すべき課題及びその具体的なロック装置の構成を異にし、両者はその作用効果において顕著な差異を有する。

(四)  よって、被告製品は、本件考案の構成要件Bにおける「杆材」を具備せず、いずれも構成要件Bを充足しない。

4 右に述べたとおり、被告製品は、本件考案の構成要件A及びBをいずれも充足せず、作用効果を異にするから、その技術的範囲に属しない。

第四被告の主張に対する原告の反論

一  被告の主張二1(三)について

本件考案においては、手動把輪と回転輪とが同一軸上に位置するように設けられているため、回転輪と係合する杆材の操作部の取付位置如何によっては杆材を操作し辛くなるとはいえるが、杆材の操作部の取付位置如何は、本件考案の構成要件ではなく、本件考案の目的、作用効果と無関係である。本件考案の目的を達成し、所期の作用効果を得るには、物置棚外から手動的に操作しうる杆材を回転輪に係合させればよいのであって、杆材の操作部を手動把輪と重ならない位置に配置することは設計技術上可能である。

二  「共軸一体」について

1  「共軸一体」の意義について

被告は、本件考案における「共軸一体」とは共軸かつ一体、すなわち軌を共にし軸に一体に固着されている場合のみを指すものと解し、この解釈を別件第一ないし第五考案の明細書の記載等から根拠づけようとしている。しかしながら、この主張は到底首肯できない。

(一) 別件第一ないし第五考案はいずれも手動式移動物置棚に関するものであり、また出願人は原告である。しかしながら、これらの考案はそれぞれ別個独立の権利の対象とされているものであって、本件考案と密接不可分であるということはできないし、出願人は常に自己の他の出願明細書の用語を斟酌しながら明細書を作成すべき義務も実務上の要請もないから、これらの各明細書の用語の意義を厳密に同一のものとして捉えなければならない理由はない。各考案の技術的範囲は各「実用新案登録請求の範囲」の記載に基づいて定められるべきことはいうまでもなく、各「実用新案登録請求の範囲」の用語は当該明細書記載の当該考案の目的なり作用効果を斟酌して合理的に解釈されるべきである。いかに構成要件に共通するところがあるからといって他の考案の明細書の記載を斟酌して解釈されるべきものではない。また、出願人の認識といってもそれは当該明細書の記載自体から推認される認識をいうのであって、他の明細書の記載をもって当該考案における出願人の認識を推認する根拠とすることは妥当ではない。

(二) 仮に、他の考案の明細書の記載を斟酌しうる場合があるとしても、

(1) 別件第三及び第四考案の各明細書には本件考案をはじめ他のいかなる考案を前提とするものであるとの記載もなく、逆に本件明細書にも別件第三及び第四考案に言及した記載はない。両者の関係は明細書の記載上全く認められないのである。したがって、これらの明細書の記載によって本件考案の技術的範囲なり用語の解釈が左右されるいわれはない。

(2) 別件第五考案の明細書にも本件考案を前提とするものであるとの記載はなく、また本件明細書にも別件第五考案に言及した記載はない。両者相互の直接的関係は明細書の記載上全く認められないのである。もっとも別件第五考案の明細書には同考案が別件第一考案の改良に係るものである旨記載されており、本件明細書にも本件考案が別件第一考案に係る物置棚の欠点を解消したものであることが記載されているが、同じく別件第一考案の「改良」又は「欠点の解消」といっても着目した解決課題を異にし、したがって「改良」なり「欠点の解消」の方向を異にするならば、両者は全く別個の技術内容を有することになることはいうまでもない。そして両者が解決課題を異にすることは明らかである(別件第五考案は暴走防止を全く目的としていない。)。したがって、別件第五考案の明細書の記載をもって直ちに本件考案の明細書の記載を解釈する資料とはなしえない。

(3) (1)、(2)と異なり、別件第一考案と本件考案と別件第二考案とは明細書の記載上直列的関係があるかに見える。しかしながら、右のような関係を斟酌しても、本件考案における「共軸一体」を被告が主張するとおり「軸を共にし軸に一体に固着されている」場合のみを指すものと限定して解釈する理由はない。すなわち、

イ 本件明細書に、本件考案は別件第一考案における物置棚が有する暴走する欠点を解消したものである旨の記載があることは被告が主張するとおりであるが、この欠点は別件第一考案に係る物置棚がその「底部に軸装され軌条上を転動する車輪」を具備していることに専ら由来するものであって、手動把手(本件考案における手動把輪)と伝動輪とを「共軸一体」とした構造に由来するものではない。すなわち、本件考案は別件第一考案の物置棚の欠点を解消したものといっても、右物置棚の構造のすべてではなく、そのうち「底部に軸装され軌条上を転動する車輪」を具備するという構造に由来する欠点に着目し、この欠点を解消するために、その制動機構として、車輪自体に直接制動部材を当接させる等の公知の手段に代えて、車輪に駆動力を伝動する伝動輪5と共軸一体に鎖輪状の回転輪7を設け、物置棚外から手動的に操作しうる杆材8a(9a)を必要に応じ前記回転輪7の歯間に係合させうるようにし、伝動輪5自体の回転を阻止することにより車輪の転動を阻止するという新規な構成を採用したものである。してみると、別件第一考案との関係を考慮しても、本件考案における「共軸一体」の要件を「軸を共にし軸に一体に固着されている」場合のみを指すものと限定して解釈すべき特別な理由はないといわなければならない。

ロ 別件第二考案の明細書には、本件考案につき手動把輪と杆材の操作部とが重なることになり、杆材を操作し辛い欠点がある旨記載されていることは被告主張のとおりであるが、右記載の趣旨は本件考案においては手動把輪と回転輪とが同一軸上に位置するように設けられているために、回転輪と係合する杆材の操作部の取付位置如何によっては杆材を操作し辛くなるというものに外ならない。すなわち、別件第二考案では、本件考案において「回転輪7」と「手動把輪4」とが「共軸」であるという構造に由来する欠点に専ら着目し、この欠点を解消するために、このような共軸構成に代えて「回転輪」と「手動把輪」とを別軸とする(「回転輪」と「伝動紐緊張用の回転軸」とを共軸にする)という構成を採用したものである。してみると、別件第二考案との関係を考慮しても、本件考案における「共軸一体」を「軸を共にし軸に一体に固着されている」場合のみを指すものと限定解釈すべき理由はない。第一、第三及び第五製品のように手動把輪と第一伝動輪及び回転輪とがクラッチ機構を介して連結していても、共軸構成を採る限り、別件第二考案の解決課題は生じるものである。

2  被告は、第二、第三及び第四製品においては車輪及び車輪伝動輪のいずれも車輪軸に固着されておらず、車輪と車輪伝動輪は「共軸一体」の構造ではない旨主張するが、一般に車輪のような回転体を支持するにあたり、軸を固定してこの固定軸に回転体を回転自在に取付けるか、又は軸に回転体を固定し、この軸を不動部材に回転自在に取付けるかは設計上の問題にすぎず、別件第一ないし第五考案の明細書の記載を斟酌しても、本件考案における「共軸一体」の意義を後者の構成に限定して解すべき根拠はない。右各製品における車輪と車輪伝動輪とは、それぞれ共通の軸を有し、かつ第二製品においてはボルトにより、第三及び第四製品においては溶接により、一体的に結合されているものであって、正に「共軸一体」をなすものであり、また両者が共軸一体であるからこそ車輪伝動輪の回転によって車輪を回転させることができるのである。

三  「手動把輪」について

1  被告は、本件考案における「手動把輪」は環状の把手として解すべきであり、被告製品における「ハンドル」は環状の把手ではなく、右要件を具備しない旨主張する。しかしながら、本件考案における「手動把輪」とは物置棚を移動させるために手で回転させるハンドル(手による操作部材)一般を意味するものと解するのが相当であり、その形状までも限定して解すべき根拠はないというべきである。この点につき被告は、ハンドルを本件考案の物置棚に用いたのでは、ハンドルの回転停止位置を垂直方向に揃えることができず不揃いになる旨主張するが、ハンドルの停止位置が揃っているか否かは、本件考案の目的、作用効果と何ら関係のないところである。

2  被告は、別件第四考案の明細書において、「手動把輪」と「操作把手」の用語が明確に区別されて用いられているが、これからも「手動把輪」とは環状の把手であることは明らかである旨主張する。しかしながら、前記のとおり、右明細書においては本件考案について何ら言及されておらず、明細書の記載上別件第四考案は本件考案とは全く関係のないものである。しかも別件第四考案は手動式移動物置棚において、「手動把輪」から物置棚の側壁面に対して垂直方向に突出している部材、すなわち「操作把手」が邪魔になるのを回避したものであって、この「操作把手」が設けられる対象物が輪体であるか一本の腕状のものであるかを問うものではなく、輪体でなければ同考案の目的が達せられないというものでもない。要するに、同考案は直接手でつかむ突出部材を右対象物に対して起倒自在に設けるというものに外ならず、そもそも右考案の「手動把輪」という用語自体、環状の把手に限定して解すべき理由はないのである。

3  被告がその相互の関連性を強調している別件第一ないし第六考案の明細書添附の図面において示される手動把輪の形状はどれもほぼ同様でありながら、別件第一、第五考案では「手動把手」、別件第二、第三考案では「把輪」、別件第四考案では「手動把輪」、別件第六考案では「手動回転把手」と用語がまちまちである。被告はこれらの用語はそれぞれ異なるものを指していると解するのであるとすれば、余りにも字句にとらわれすぎた解釈といわざるをえない。これらの語は、表現に多少の相違はあっても、いずれも物置棚を移動させるために手で回転させるハンドル(手による操作部材)一般を意味すると解するのが相当であり、その形状までも限定して解すべき根拠はないというべきである。

四  「杆材」について

1  被告は、本件考案における杆材とは細長い棒状部材を意味すると解し、この解釈を前提として被告製品において回転輪の歯間に係合する係合板又は係止片は扁平な板状部材であり「杆材」ではない旨主張する。しかしながら、本件考案における「杆材」を細長い棒状部材に限定解釈すべき技術上の根拠はなく、また、字句の語義及び一般の用語例からしても、少なくとも被告製品における係合板又は係止片のように細長い扁平な板状部材も「杆材」に含まれるというべきである。

2  被告は別件第二及び第六考案の明細書の記載から本件考案にいう「杆材」とは細長い棒状部材を指すものと解すべき旨主張する。しかしながら、

(一) 別件第二考案の明細書における本件考案についての記載の趣旨は、本件考案においては手動把輪と回転輪とが同一軸上に位置するように設けられているために、回転輪と係合する杆材の操作部の取付位置如何によっては、杆材を操作し辛くなるというものに外ならない。すなわち、右明細書では、本件考案における「回転輪」と「手動把輪」とが「共軸」であるという構造に由来する欠点に専ら着目し、この欠点を解消するために、このような共軸構成に代えて、「回転輪」と「手動把輪」とを別軸とする構成を採用したものであること前記二1(二)(3)ロのとおりである。してみるとこの記載から直ちに本件考案における「杆材」が細長い棒状部材に限られると解することはできず、また本件考案の出願人が「杆材」とは細長い棒状部材を指すものと制限的に認識していたと解することもできない。回転輪と手動把輪とが共軸であり、かつ回転輪の制動部材として細長い棒状部材を用いたとしても、操作部の取付位置如何によっては操作部と手動把輪とは重なり合わないし、逆に回転輪と手動把輪とが共軸である限り、回転輪の制動部材として板状のものを用いたとしても、操作部の取付位置如何によっては操作部と手動把輪は重なり合うものであって、制動部材の形状如何にかかわらず、前記の解決課題を生ずるものである。

被告は、本件考案において、手動把輪及び伝動輪と共軸一体の回転輪の歯間に棒状の杆材を安定して係合せしめるためには、回転輪の回転軸に対して平行な方向に杆材を指向させ、同杆材をその長手方向に沿って移動させるか、又はこれと平行で一体の材杆9bを中心として揺動させなければならず、このために、杆材の操作部と手動把輪とが物置棚の側面位置で重なり杆材の操作が困難となる旨主張する。しかしながら、回転輪の回転軸に対して平行な方向に棒状部材を指向させるためには、被告の主張する右の二方法に限られるというものではない。被告製品におけるように棚の側壁の枝通路側に操作部を設け、回転輪の回転軸と直角に指向する操作軸に棒状部材を直角に取付けて操作軸を中心に回動せしめることにより回転輪の歯間にこれを安定して係合せしめることも可能であり、この場合には、操作部と手動把輪とは何ら重なり合うことはない。別件第二考案の解決課題が制動部材の形状如何によって生ずるものでないことはこの点からも明らかである。

(二) 被告は、本件考案の出願人が、本件考案における杆材の操作部が手動把輪と重なり操作し辛いとの欠点を、別件第六考案において杆材に代えて制動片を採用し、制動片を楔利用で上下に昇降させて回転輪の歯間に係脱自在に係合させる構成で克服することを提案していることから、本件考案における「杆材」とは細長い棒状部材であり、扁平な板状部材は別考案として認識していた旨主張する。しかしながら、別件第六考案の明細書には本件考案との関係は全く記載されておらず、何らの言及もない。右明細書には「杆材」という用語自体及び「杆材」を用いることの欠点の指摘もなく、まして「杆材に代えて制動片を採用した」との記載もない。すなわち、右明細書からは「制動片」という語が「杆材」とは区別された、その対立概念を示すものとして用いられていることを窺うことはできないのである。加えて別件第六考案の「制動片」にしても被告製品の「係合板」又は「係止片」にしても、回転輪の歯間に係合するのは先端縁のみであり、この先端縁の部分のみを採り上げればそれは正に回転輪の面に対して直角に、すなわち回転輪の回転軸に対して平行に指向した細長い棒状のものであるということができる。してみると別件第六考案の明細書において「制動片」という語が用いられているからといって、本件考案にいう「杆材」が板状の制動部材を除外する趣旨のものであり、またそれが本件考案の出願人の認識であったとはいいえない。むしろ別件第六考案は本件考案の制動機構の具体的構成の一つを特定したものであり、この意味において本件考案の利用考案の一種に該当するというべきである。後願の利用考案の用語によって先願たる本件考案の技術的範囲が制限されるいわれはない。

3  被告は、本件考案は床に布設された軌条が傾斜している場合に傾斜上方の棚が下方に暴走するのを防止したものであり、一方、被告製品のロック機構は作業者が通路内にいる場合に誤って他の通路の開閉が行われないように作業中の通路を確保するためのものであるから、両者の課題は基本的に異なる旨主張する。しかしながら、この主張は到底首肯することはできない。被告製品のロック機構も、本件考案における「杆材」と同様に回転輪を係止して棚の移動を阻止しようとするものであり、棚の暴走を防止し作業者の安全を確保するために設けられていることに変わりはない。被告製品におけるロック機構がその特殊な具体的構成の故に右の機能の外に本件明細書には記載されていない効果を奏するとしても、それは付加的な効果にすぎず、またこの具体的構成及び付加的効果の故に実用新案登録を受けたとしても、本件考案の技術的範囲に属することに変わりはない。

第五証拠《省略》

理由

一  原告が本件実用新案権を有していること及び本件登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、並びに、被告が、現に、第五製品を業として、製造、販売し、販売のため展示していること、及び、第一ないし第四製品を業として、製造、販売したことは、当事者間に争いがない。

二  右当事者間に争いのない本件登録請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案の構成要件は次のとおりであることが認められる。

A  物置棚の側壁に軸装した手動把輪と共軸一体の伝動輪と、前記物置棚の底部に軸装され軌条上を転動する車輪と共軸一体の伝動輪との間に、伝動紐をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚であること。

B  前記物置棚において、次の(1)ないし(3)からなる装置であること。

(1)  手動把輪と共軸一体に鎖輪状の回転輪を設けること。

(2)  物置棚外から手動的に操作しうる杆材を設けること。

(3)  右杆材を必要に応じ前記回転輪の歯間に係合させうるようにしたこと。

三  以下、本件考案の構成要件B(2)の「物置棚外から手動的に操作しうる杆材を設けること」の意義について判断する。

本件登録請求の範囲の「物置棚外から手動的に操作し得る杆材8a(9a)を必要に応じ上記回転輪7の歯間に係合させ得るようにした装置」との文言自体からして、右構成要件B(2)は、杆材を手動操作するための操作部が必要であること、右操作部が「物置棚外」に設置されることを、本件考案の要件として規定していると認められる。

そこで、右操作部が設置されるべき「物置棚外」の意義について考察する。前顕甲第二号証及び《証拠省略》によれば、本件考案における手動式移動物置棚は、室内の空間をできるだけ能率よく利用するために、室の床に軌条を布設し、同軌条上の車輪付の多数の同物置棚を原則として相互の間隔をあけずに移動自在に配置して用いるものであり、配置された多数の物置棚の側壁の外側には格納品を出し入れする者等の通行する通路(「主通路」という。)があり、一方、特定の物置棚に格納品を収納したり取出したりする場合には、他の物置棚を軌条に沿って移動させることによって、希望の棚の前面に通路(「枝通路」という。)を形成することができるものであること、したがって各物置棚間の枝通路側は通常閉じられており主通路側は常に開放されている構造であること、及び本件明細書において、物置棚の主通路側を示す用語として、「物置棚の外壁の外がわ」、「物置棚の外がわ」、「側壁外」(本件実用新案公報2欄三七行、同3欄四行、同3欄二三行参照)との記載があることが認められる。これを前提として前顕甲第二号証を見れば、本件明細書には、右構成要件B(2)、(3)の構成について、「制動輪に対する係合杆材の動きが……(略)……全く異なるように構成されている」(本件実用新案公報3欄一三ないし一五行)二つの実施例が記載されているが、それらはいずれも物置棚の側壁の外側すなわち主通路側に杆材の操作部が設置されており、杆材を物置棚の側壁の外側すなわち主通路側から手動的に操作する構造を示しており、物置棚の棚の前面に形成される枝通路側に杆材の操作部を設置する構成については何らの言及もないことが認められる。

そして、前顕甲第二号証及び《証拠省略》によれば、原告は本件考案を出願した約二月後に別件第二考案を出願し、右別件第二考案の明細書の詳細な説明の欄において、本件考案をその出願番号を明記して特定し(右明細書中の「実願昭四九―九四二二号」との記載は、「実願昭四九―九四九二号」の誤記と認める。)、これを件外出願と呼び、「上記件外出願に係る移動物置棚によれば、床に布設された軌条が傾斜している場合でも物置棚の暴走を防止することができ、物置棚と物置棚の間の通路内で物品の出し入れ作業をしている者を押し潰す恐れがないというような効果があるが、杆材によって制動がかけられる鎖輪状の回転輪が把輪と共軸一体に設けられているため、同把輪と上記杆材の操作部とが棚の側面において重なることになり上記杆材を操作し辛い欠点があった。本案は上記件外出願に係る物置棚の欠点を解消したものであって、以下、図示の実施例につき本案を説明する」(別件第二考案の実用新案公報1欄二五行ないし2欄八行)と別件第二考案の目的を述べ、同明細書の最後の部分に、別件第二考案の装置においては、「被制動輪12は伝動鎖を緊張するために同伝動鎖の中程に設けられた鎖輪と共軸一体に設けられているため、同被制動輪12と係合すべき制動杆材13bの操作部は物置棚を移動させるための把輪4の位置から十分に離すことができ、当初に説明した件外出願のもののような欠点を解消することができる。」(同考案の実用新案公報4欄六ないし一二行)と、その効果を記載していることが認められ、右によれば、右両考案の出願人である原告としては、本件考案においては、手動把輪と杆材の操作部とが物置棚の側面において重なる構成、すなわち手動把輪が軸装される物置棚の側壁の外側すなわち主通路側に杆材の操作部を設置する構成のみを考えていたのであり、少なくとも杆材の操作部が物置棚の棚の前面に形成される枝通路側に設置され、右操作部と手動把輪とが重なりうる余地が全くない構成のものは考えていなかったこと、そして、本件考案及び別件第二考案において杆材の操作部が物置棚の側壁の外側すなわち主通路側に設置される構成のもののみを考えていたからこそ、別件第二考案においては回転輪(被制動輪12)を手動把輪と別軸に設置して杆材の操作部を手動把輪の軸装される位置から十分に離すという構成によって、手動把輪と杆材の操作部とが重なる欠点を解決しようとしたことが認められる。

以上によれば、本件考案の構成要件B(2)の「物置棚外」とは「物置棚の外」すなわち「物置棚の側壁の外側」、「物置棚の主通路側」との意味であり、右構成要件B(2)の「物置棚外から手動的に操作しうる杆材を設けること」との要件は、「物置棚の外すなわち『物置棚の側壁の外側』、『物置棚の主通路側』において手動的に操作しうる杆材を設けること」、換言すれば、物置棚の側壁の外側すなわち主通路側に杆材の操作部を設置した構成のもののみを意味していると、解すべきである。本件全証拠によっても、杆材の操作部が物置棚の棚の前面に形成される枝通路側に設置され、右操作部の手動把輪とが重なる余地が全くない構造のものを本件考案の出願人が認識したうえでこのような構造を持つ装置をも本件考案の技術的範囲に含まれるものとして本件明細書にその構成を開示し、本件登録請求の範囲を記載したものと到底認めることはできない。

原告は、杆材の操作部の取付位置如何は、本件考案の構成要件ではなく、本件考案の目的、作用効果とも無関係であり、かつ、本件考案において右操作部と手動把輪とが重ならない位置に配置することも設計技術上可能である、また、別件第二考案の明細書における前記記載の趣旨は、杆材の操作部の取付位置如何によっては手動把輪と重なり操作し辛くなるというものに外ならない旨主張するが、杆材の操作部が物置棚の棚の前面に形成される枝通路側に設置され、右操作部と手動把輪とが重なる余地が全くない構造のものを本件考案の出願人が認識したうえでこのような構造を持つ装置をも本件考案の技術的範囲に含まれるものとして本件明細書にその構成を開示し、本件登録請求の範囲を記載したものと到底認めることはできないこと前記のとおりであり、出願人が考案として認識していた範囲を超えてその技術的範囲を定めることは相当でないから、本件考案の構成要件B(2)の意義についての前記認定を変更する要をみない。原告の主張はいずれも採用しえない。

四  被告製品を本件考案と対比するに、別紙第一ないし第五目録の記載によれば、被告製品は、いずれも物置棚の側壁の枝通路側に設置した表示兼ロックレバーによって手動的に操作しうる係合板又は係止片を設けた構造であり、本件考案の杆材の操作部に対応する表示兼ロックレバーが物置棚の側壁の枝通路側に設置され、右レバーと本件考案の手動把輪に対応するハンドルとが重なる余地が全くない構造であることが認められ、これに対し本件考案の構成要件B(2)の「物置棚外から手動的に操作しうる杆材を設けること」は、「物置棚の側壁の外側すなわち主通路側において手動的に操作しうる杆材を設けること」、換言すれば、物置棚の側壁の外側すなわち主通路側に杆材の操作部を設置した構成のもののみを意味していると解すべきことは前記三のとおりであるから、被告製品は、いずれも本件考案の構成要件B(2)を充足せず、本件考案の技術的範囲に属しない。

以上によれば、被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

五  よって、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 清水篤 設楽隆一)

〈以下省略〉

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